【院長日記】緩和ケア

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緩和ケアについて

こんにちは。院長の齊藤 航平です。 今日は、がんの治療とあわせてとても大切な「緩和ケア」、そしてその中でもよく話題にのぼる「モルヒネ」について、少しお話ししてみたいと思います。

がんと診断されると、多くの方は「治療を頑張らなきゃ」と思います。もちろん、それはとても大切なことです。でも、それと同じくらい大切なのが、「どう過ごすか」「どう生きるか」…つまり、生活の質(QOL)を保つことです。

そのサポートをするのが、緩和ケアです。

「緩和ケア=もう治療ができない人のもの」と思われがちですが、実はそうではありません。緩和ケアは、がんと診断されたその日から受けていい医療なんです。

私自身、訪問診療の中で、大学病院で治療を受けながら在宅で日々の相談をされる患者さんと多く関わっています。味覚や気分の変化、不安、生活の不便さ。そうした「病気以外のつらさ」も、緩和ケアの大切な対象です。

アメリカの研究(Temelら, 2010)でも、

がんの治療と並行して早期から緩和ケアを受けた患者さんは、

  • 気持ちが安定し
  • 生活の質が高まり
  • さらに生存期間も長くなる可能性がある

と報告されています。

よくある質問

緩和ケアって「治療はもうやらない」ということですか?

いいえ。治療と緩和ケアは“どちらか”ではなく、“どちらも”必要です。抗がん剤治療や放射線治療を続けながら、生活のつらさや不安に対して緩和ケアを受けることは、まったく矛盾しません。私の患者さんの中にも、化学療法と並行して、在宅で味覚や睡眠、意思決定などの相談をしながら過ごされている方がたくさんいらっしゃいます。

モルヒネを使うのは「もう最期」ということですか?

これもよくある誤解ですが、違います。モルヒネは「つらさをやわらげる薬」であって、「最期だから使う薬」ではありません。痛み、呼吸のつらさ、不安をやわらげることで、日常がずっと楽になります。また、適切な使用で寿命が短くなるという証拠はないとされています(Bolandら, 2020)。

モルヒネって依存性があるのでは?

医療用麻薬という名前は少し怖いかもしれませんが、適切に使えば依存症になることはまずありません。痛みや苦しさに応じて量を調整することはありますが、それは「依存」とは違います。

在宅で看取りまでできるのか不安です。

そのお気持ちはとてもよくわかります。最期が近づいてくると、ご家族の不安も強くなります。でも、医療・介護のサポートがしっかり入れば、多くの方が自宅で穏やかに過ごすことができます。 このテーマについては、前回の記事「在宅での看取りについて」でもお話ししていますので、よろしければご覧ください。 → https://hato39.com/diary20250416/

最後に

緩和ケアは、「命をあきらめる医療」ではありません。 その人が、その人らしく生きるためにある医療です。

私たちは日々の診療の中で、
「痛みが楽になって気持ちが落ち着いた」
「相談できる場所があって安心した」
そんな言葉を、患者さんやご家族からたくさんいただいています。

治療も大切、緩和も大切。 これからも、両方のバランスを大事にしながら、一人ひとりに合ったサポートをしていきたいと思っています。 どうぞ、どんなことでもお気軽にご相談ください。

参考文献: Temel JS, et al. Early Palliative Care for Patients With Metastatic Non-Small-Cell Lung Cancer. N Engl J Med. 2010; 363(8):733–742. Boland J, Bennett MI. Pain, opioids, and survival in patients with cancer. Pain. 2020; 161(4):875.

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